「下流から上流に適正水準積み上げ」労務費WG
国土交通省は11月6日、中央建設審議会において、第2回労務費の基準に関するWG(座長=政策研究大学院大学小澤一雅教授)を開催した。当日は9月10日に行われた第一回WGで確認した基本方針を踏まえ、労務費の基準の①実効性確保策の全体像、②作成方法の暫定方針――の2点について審議。適正水準の労務費を下請に、賃金を技能者にまで行き渡らせるための方策について議論が行われた。
改めて同WGは技能者の賃上げを目的としたもので、公共工事のみならず、住宅分野を含めた民間工事も視野に労務費の基準策定について検討を実施。契約当事者間での価格交渉時に参照できる、「適正な工事実施のために計上されるべき労務費」の相場観として機能させることを目指している。
今回、①では実効性確保に必要なこととして、㋑各契約段階で適正な水準の労務費を確保する、㋺適正水準の労務費を下請けに、賃金を技能者にまでいきわたらせる――という視点を提示。「もらった金額を元に上流から下流へ価格が決まる形」ではなく、「下流から上流に向けて適正水準を積み上げ、金額が決まる形」を目指す考えだ。
㋑では発注者と元請け間、元請けと一次下請け間といった段階で取り組む方向性として「労務費・必要経費を内訳明示した見積書の提出・尊重を商慣行化」するとした。さらに「技能者の処遇改善に取り組む企業が競争上不利にならない環境整備」などに取り組む方針だ。
㋺では「適正な労務費・賃金の支払いについて契約上で担保する取り組みの定着」、「技能者への賃金支払い状況が把握できる仕組みの構築」といった方向性が示された。「技能者への賃金支払い状況が把握できる仕組み」としては、CCUSレベル別年収など、技能や経験に応じた処遇水準との比較についても検討する考えだ。
一人親方であっても使いやすい仕様
②については事務局が暫定案で請負契約の労務費目安を算定する計算式を発表。労務単価(円/人日(8時間))×歩掛(人日/単位あたり施工量)の計算式によって単位施工量あたりの労務費として示すことを基本とすることとした。その上で「契約交渉時の相場観として活用されることを踏まえ、中小事業者や一人親方であっても使いやすい仕様で作成すること」、「工種や規格の違いなどによる細分化は最小限にとどめる」方向性で調整する。
この他、当日は職種別意見交換の進め方についても議論を実施した。第1回WGでは委員が「建築と土木では差があることから、分けて考えることが必要」と指摘。このため、「労務費の基準」の作成に関する基本方針として「全ての職種、工種について同時に議論、作成するのではなく、職種別に、順次検討を進める」こととなっていた。
そこで今回、「鉄筋」と「型枠」から検討を開始する。これは土木・建築の双方に幅広く関係する職種で、労務単価や歩掛といった検討の材料が比較的そろっていること、職種に対応した業界団体の検討体制などを勘案したもの。この他、一人親方が多い・発注者が個人等の特殊性があることを踏まえ、「住宅分野」についても、検討の準備が整い次第、順次検討を開始するとした。なお、同WGは今後令和7年11月頃までに中央建設業審議会に対し、労務費の基準の勧告を行う予定だ。
労務費問題 編集部はこうみる
同WGは住宅業界を含む民間工事においても労務費を設定し、その基準に基づいた賃金支払いが行われるよう検討しているもの。そのため令和7年11月頃に中央建設業審議会に対して行われる勧告内容次第では、工務店においても協力業者や一人親方との間で賃金を巡るやり取りが変化してくる可能性は否定できない。
具体的にはこれまで「一日幾ら」といった大雑把な賃金支払いをしていた企業であっても、将来的には見積もりと契約を同WGで算出される適正価格で交わすことが求められるなどの変化が生じるものと思われる。そのため、今のうちにこうした流れに対処するための準備を行っておきたいところだ。
そして協力業者などに適切な賃金をしっかり払うため、もう一つ重要なこととして挙げられるのが「お施主様の理解」だ。住宅価格が上昇する昨今。だが、今回の件について、同WGの委員も務める全国建設労働組合総連合の長谷部康幸賃金対策部長は、お施主様に業界の動向を説明し、適切な施工費の支払いをご納得頂く必要があると指摘する。
もちろん、「住まいの販売価格と労務費の適正価格は必ずしも同じ土俵で語れるものではない」と考える事業者もいるかもしれない。それでも、職人の労務費確保は業界全体の処遇改善に向けて避けて通ることのできない道。工務店はこれら国の動きを踏まえつつ、社会全体に住宅事業者の賃金引き上げを認める機運を醸成させる礎となることが求められているといえるだろう。
【日本住宅新聞11月15日号より一部抜粋】