シロアリ探知犬「くんくんズ」 神田明神で文化財調査を実施

シロアリ防除や地震対策、高断熱施工サービスを展開する㈱アサンテ(東京都新宿区)は神社仏閣や文化財などを害虫被害から守る「木の文化継承プロジェクト」を3月12日に発足した。
シロアリが活発化しはじめる4月を控え、本格的な始動に至った。プロジェクト第一弾の活動場所は東京都千代田区の神田明神境内にある隨神門。発足当日、同所で記者発表会が開催された。
アサンテの宮内征代表取締役社長は「木材は優れた材料だが、シロアリ被害に遭うと耐久性が低下して地震発生時の崩壊率に影響を及ぼす」と指摘し、「弊社は単なる害虫駆除の枠を超えて地震などから建物を守ることを使命としている」と話した。
アサンテはシロアリ対策で全国シェアトップを誇る東証プライム上場企業だ。1973年の設立から2024年3月末時点で累計60万軒の施工実績をもち、全国に81カ所の営業拠点を構える。プロジェクトではこれまで培ってきたノウハウを活かして我が国における木の文化を害虫被害から守る。
宮内社長は京都の桂離宮や清水寺、奈良の薬師寺の塔などの名所でも、シロアリ被害による大規模な修繕を実施したケースがあると紹介した。「こうした状況を見聞きして我々も害虫防除の技術をもって木の文化(の保全・振興)をお手伝いしたい」とプロジェクト発足の背景について語った。
これについて神田明神の加藤哲平権禰宜はアサンテのプロジェクトに「共感している」と切り出し「社殿と木材は切っても離せない関係にある」と言及、今回シロアリ調査の対象となる境内の隨神門について「神田明神にとっても大事な木造建物だ。今後100年間残していくために知恵を借りたい」と話した。
神田明神は西暦730年に東京都千代田区の大手町に創建し、1616年には現在の千代田区外神田に移動した。プロジェクトの調査対象となる隨神門は関東大震災で火災の被害に遭っており、1975年に総ヒノキの入母屋造で再建された。
プロジェクトではシロアリ探知犬チーム「くんくんズ」が活躍する。中尾能之常務取締役は「壁や床を剥がす調査が難しい歴史的建造物でも、非破壊で正確にシロアリ調査が可能になる」とその特長を語る。
「くんくんズ」は1~2年のトレーニングを積んだ後、人間の100万倍といわれる嗅覚でシロアリ調査の業務に就く。ハンドラーの下山当係長(=アサンテ営業企画部研究開発課)はトレーニングを終えても日曜日以外の6日間は「シロアリの匂いを忘れないよう」1日15分の練習を行うと話す。
チームはビーグル犬で組織しているが、その理由は「古来から人間とともに生活してきた犬種であることから人間に対して非常にフレンドリーな性格であるため」(下山ハンドラー)という。また、体が小さいため人間が入れない狭い場所でも能力を発揮する強みももつ。
当日は隨神門でシロアリ調査のデモンストレーションを実施したが被害は確認されなかった。もし探知犬がシロアリを発見すれば首を大きく上下に振ることでハンドラーに知らせる。
同社はこのような職業犬について「日本では普及の余地がある」とした上で、「米国では数百頭が活躍しているといわれている」と補足した。なお、米国では中古物件を売買する時にシロアリがいるかどうかの検査証明が必要だ。このような背景も影響している。
「木の文化継承プロジェクト」では今後、歴史的木造建築や桜の木などを対象に、シロアリ生息調査と防除施工、桜などの樹木に被害を与えるクビアカツヤカミキリの駆除施工などを実施する予定だ。4月9日には愛知県稲沢市の尾張大國霊神社でシロアリ探知犬による調査を計画している。
【日本住宅新聞2025年3月25日号より一部抜粋】
画像:当日は神田明神境内の隨神門で、シロアリ調査のデモンストレーションが行われた