50周年記念特集号(第二弾) 三協立山㈱・三協アルミ社 豊岡史郎社長 付加価値と「人」の魅力で市場拓く 収益構造の抜本的な改革を目指す

――弊社50周年記念インタビューにご対応いただきありがとうございます。早速ですが、6月1日から社長に就任をされて今のお気持ちとこれからの抱負は。
豊岡社長:50周年おめでとうございます。「大役ですが、やり遂げなければならない」という想いだけです。
――豊岡社長はビル建材事業でご活躍されたご経験が豊富です。今後は住宅建材・エクステリア事業も含めて指揮をお取りになりますが、その点についてはいかがでしょうか。
豊岡社長:ビル建材事業での営業経験が最も長いため、今後は住宅建材・エクステリアに関しても色々と勉強をしていかなければなりません。また、私は社長職の立場であるため、現場に近い部長職の社員が職務を遂行しやすい環境を作ることも重要だと考えています。組織としては共に事業の方向性を決めていくことが欠かせません。こうした環境づくりはビル建材事業でも経験してきたため、分野は違えど、活かしていけると自負しています。
――経営課題とその課題解決につなげる方策についてはいかがでしょうか。
豊岡社長:建材事業は見込んでいた業績が出せていた時期もありますが、昨今は少々低収益で推移している状況です。まずはこの状況を打破しなければなりません。ただし、外部環境としては少子高齢化によって必要とされている住宅戸数が減少しており市場が縮小傾向になっています。人口減少による人手不足もあります。弊社だけではなく、弊社の事業でかかわっていただいている職人さんや物流会社さんなど協力会社も例外ではありません。市場の縮小に対して弊社では付加価値提案とカーボンニュートラルによって解決へとつなげます。窓や外壁などを従来のまま作り続けてもいずれ市場は減っていきます。社会課題に取り組みながら付加価値をつけていくことで、弊社の製品に価値を認めていただく売り方が必要だと考えています。また、付加価値の向上とあわせて生産効率のアップも検討していきます。
――人手不足に関連して、働きやすさにつなげる方策についてはいかがでしょうか。
豊岡社長:昔のサラリーマン像では「残業が当たり前」、「有給休暇は使わないのが美徳」などの考え方があったのではないでしょうか。しかし、今は180度変わっています。従業員は会社のためだけではなく、自身と家族の幸せのために働いているという考え方も尊重しなければなりません。従業員から「この会社の環境が最適だ」と思ってもらえるよう取り組んでいかなければならないと考えています。また、私はトップダウンだけでなく、従業員一人ひとりが考えて行動し、自分の存在意義をしっかりと示せるのが理想だと思っています。また、現在はインフレの時代であるため、賃金も上げていかなければなりません。
――「自分の存在意義を示す」という点について豊岡社長ご自身のエピソードなどはありますか。
豊岡社長:私はビル建材事業で営業職に従事していました。企業によっては受注までが営業業務の役割というケースもありますが、弊社の場合は上工程から竣工までかかわっていきます。イメージとしてはプロジェクトマネージャーが近いのでしょうか。例えば設計部門が現場との交渉で難航していたり、お客様と納期の交渉が必要になったりなどの状況になることがあります。こうした際、全面的に営業が出ていくというわけではありませんが、仕事がスムーズに進むようにサポートが必要です。こうした仕事の進め方をしていれば、やがて一緒に働いているメンバーとの関係も「仲間」のようになっていきますし、「一緒に仕事をしてよかった」というような言葉がもらえればお互いのモチベーションにもつながります。
――様々な工程の担当者と密にコミュニケーションを取り続ける仕組みが、自ずと社員同士の関係構築につながっていくのですね。
豊岡社長:密にコミュニケーションを取ることも必要ですが、前提として話を聞く姿勢は重要です。もちろん、全てを人に頼るのもいかがなものかと思います。相談しつつも自分の部署でなんとか切り抜けてみようとするスタンス、そのバランスが重要ではないでしょうか。私はとしてはやはり「何かあったら言ってきてくれよ」という姿勢が必要だと心掛けています。
――社長就任となる初年度はどのような取り組みをされますか。
豊岡社長:収益構造の抜本的な改革です。住宅建材もビル建材も同様ですが、国内市場がシュリンクしていく中では先述のような付加価値を上げていったり、工場の生産体制を効率化していったりといったことが必要です。これらの取り組みをどのように推し進めていくか、初年度ではその道筋をしっかりと描いていきたいと思っています。また、お客様の考え方や求められることも変わってきておりますので、それに対応できるかどうかも課題です。現在弊社が基幹としている住宅建材やビル建材の強みを異なる領域に展開できないかということも検討しています。例えば窓を考えてみても断熱性能だけではなく、太陽光発電が可能になる窓も省エネの観点からは必要です。また、木製サッシを展開したりなどのチャレンジも進めていければ、木材利用の推進をアルミ材とコラボしながら展開していけます。しっかりと将来ビジョンを描きながら、初年度に臨んでいきたいと思っています。
――経営の中で特に意識されていることはありますか。
豊岡社長:弊社社名にある「三協」と同じ読みで、中国の古典「貞観政要」の中に「三鏡」という教えがあります。自問自答、つまり自分を映す「鏡」と、歴史に学ぶ「歴史の鏡」、そして他者からの助言を受け入れる「人の鏡」です。リーダーシップ論としてもよく取り上げられますが、この教えは疎かにしないよう心がけながら経営に携わっています。
――今までで最も苦労されたエピソードはありますか。
豊岡社長:私が営業職として従事していた時代、業界では価格面の優位性から、国内製造から海外製造にシフトしていった時期がありました。その頃に弊社でも海外の提携工場で生産して国内に輸送する取り組みを検討しましたが、この取り組みを私は社内で初めて先頭切ってトライしました。国内工場で生産するよりも海外の提携工場で生産したほうが安く済むはずだったのですが、結論からいうと上手くはいかなかったのです。日本市場では高品質が求められますが、海外で生産するカーテンウォールやサッシは日本ほど高水準な作り方をしません。具体的には材料や塗装、表面処理などの品質確認が取れていなかったのです。海外の提携工場に品質を上げるように交渉してもなかなか理解が得られず、かといって日本のお客様も商品を受け取っていただけません。こうした窮地を救ってくれた国内工場の生産能力については手前味噌ながら「大したものだ」と思ったものです。こうした経験は海外の提携工場で製品を生産して国内で販売する取り組みにおける最初の苦労だったと認識しています。
――今後の御社の方向性をどのようにお考えでしょうか。
豊岡社長:弊社を選んでいただく要因を突き詰めて考えていくと、「人」の差別化が必要ではないかと考えます。例えばお客様と接する営業であれば「あの人から買いたい」と思っていただかなければなりません。
――それは対応力ということでしょうか。
豊岡社長:そうです。マニュアル通りではない対応を自分で考えて積極的に行っていく営業スタッフが育っていく環境づくりをしたいと思っています。あるいは自らの技量を向上させていく力やモチベーションが持てる環境も重要です。
――では最後に読者工務店の方々に対してひとこと、お願いします。
豊岡社長:新しい住宅向けアルミ樹脂サッシシリーズの第一弾を来年の夏に発売する予定です。他社に比べてペアガラスで最も断熱性能が高い製品になる見込みです。現在は開発・生産対応の検討を進めているところです。樹脂サッシではなくアルミ樹脂の複合サッシであるため、細い見付けが実現できます。あらゆる製品の中で最もシャープでスマートな印象のサッシは工務店様の付加価値提案にもつながるものと思いますので、ぜひともご期待ください。
【日本住宅新聞9月15日号より一部抜粋】