3Dプリンター住宅でつくる未来の住宅について解説 inハウス・デポ・ジャパン全国社長会
全国の建材流通に携わる、加盟販売店の経営支援を行うハウス・デポ・ジャパンは7月9日、7月度建材プラットフォーム全国社長会を東京都内で開催した。当日は3Dプリンター住宅を手掛けるセレンディクス㈱の飯田國大執行役員COOが、講演「車を買う値段で、家を買う」を実施。3Dプリンターでつくる未来の住宅について、その現状や可能性、目標など最新の知見を報告した。
セレンディクス社は2018年8月に設立された、3Dプリンター住宅の開発及び販売を手掛ける企業。2022年3月に日本初の3Dプリンター住宅「serendix10」(10㎡)を23時間12分で完成、翌2023年には販売第1号として長野県佐久市に同型住宅を納入した実績を持つ。現在、8台の3Dプリンターを所有、年末までにさらに4台増やす計画を立てており、世界で最も建設用3Dプリンターを所有する会社となっている。
冒頭、同社のミッションについて飯田COOは「世界最先端の家で人類を豊かにする」ことだと説明。具体的には「平均完済期限が73歳といわれる住宅ローンに縛られることなく、高性能かつ安全・安価な家を誰もが手に入れられる社会の実現を目指す」とした。
「人生は1回しかない。もっと自由に生きていい。その自由を阻害している最大の要因は家だと思っている」と飯田COO。3Dプリンター住宅を普及させることで、最終的には、「100㎡で300万円」の住宅を「全世界で10億棟」建設する目標を掲げている。
そのために欠かせないのが、「家をゼロから再発明する」という考え方。現在の住宅は大工をはじめとする各種職人が数多く出入りし、完成させている。これについて飯田COOは「40年前に自動車産業はロボット化を成功したが、今でも職人が車を手造りした場合、1台1億円するという。このように職人が住宅を作っている時点で3000万円かかるのは当たり前」と指摘。高性能かつ安全・安価な家を実現するためには、住宅産業の完全ロボット化を進める必要があると訴える。
屋根まで一体成型実現
3Dプリンターは垂直にコンクリート素材を積み上げていくことを得意とする仕組みを持つ。だが、コンクリート素材の硬化には40分程度時間が必要で、出力する角度が斜めになると、固まり切らなかった素材が流れ出してしまう。こうしたことから3Dプリンターを利用して住宅を一体設計しようとしても、屋根など重力の影響を受けやすい部位まで作成することは困難とされていた。
実際、世界を見渡せば同社以外でも建設目的で3Dプリンターを導入している企業は存在するが、多くは壁など住まいの一部を代替するなどの運用にとどまる。3Dプリンターを利用しても施工時間、コストともに50%を超えるような削減は達成できておらず、その他の作業に当たっては職人の手を介在させる必要があるのが現状だ。
一方、同社は3Dプリンターのヘッド部分に化学的な材料を混ぜ、出力後30秒でコンクリート素材を硬化させる技術を開発。意匠も従来の住まいとは一線を画す、3Dプリンターの特性を生かした独特の球体形状とすることで、「世界初の3Dプリンターによる一体成型の住まい」を実現させた。現在、施工時間は10㎡の家で1棟あたり24時間以内に短縮。コストは通常の住宅の10分の1と、およそ車の値段で建てることを可能としている。
昨年8月には慶応義塾大学と共同で夫婦2人暮らしを想定した50㎡の平屋の3Dプリンター住宅を550万円で販売した同社。わずか44時間で完成させられる同住宅は特に高齢世帯からの引き合いが強く、現在、問い合わせは1万件以上、このうち、購入意向は3000件にも及ぶ。
だが、同社がこれまで実際に国内で販売した住宅は、わずか6棟に過ぎない(海外では4棟)。これは何故か。飯田COOは「元々紡績産業だったトヨタ自動車㈱が自動車産業に参入する際、最初の年は6台しか車を売らなかった。6台売って、そのフィードバックを返してもらう中で改善点を見つけて量産に進んでいった。我々も今、徹底的に改善とフィードバックを行っている」と説明する。
工場生産で品質を安定
そんな同社が手掛ける3Dプリンター住宅の施工上の特長として挙げられるのが、現場打ではなく、工場でプレキャストし、輸送する手法を採用していること。仮に現地で出力する手法を選んだ場合、雨が降ったり、湿度が高かったり、気温が暑かったりすれば、3Dプリンターは影響を受けてしまう。施工時間短縮や品質確保のためには安定した環境が整えられる工場で作成することが結果的に大きなアドバンテージになってくる。
一方、工場でプレキャストした場合、品質は安定しても課題となるのが輸送面。飯田COOによるとトラックで輸送する際、阪神大震災の約2・5倍もの重力加速度が3Dプリンター住宅にかかるという。そのため、当初は輸送時に躯体が壊れたこともあり、「非常にショックを受けた」こともあったと明かす。だが、3カ月後にはこの課題も無事クリア。現時点で3Dプリンター住宅の輸送技術に対する知見を持つのは、同社のみといえ、こうした点も同社の強みとなっている。
また、3Dプリンター住宅の強みといえるのが、性能面。例えば上述のserendix10は、壁厚30㎝の強固な外装構造を持ち、高い耐熱性、耐震性、耐久性を誇る。こうしたことから、我が国よりも厳しいヨーロッパの厳しい断熱基準もクリア。耐震性能も非常に強固となっており、住空間としても多くの魅力を備えている。
この他、多くの人が気になっている点が、3Dプリンターの法制上の位置ではないだろうか。現在、同住宅の固定資産税の評価は鉄筋RC造と同様の扱いとなっている。
具体的には3Dプリンターによりモルタルを用いて型枠を造形する場合、①非構造部材として構造耐力に期待しない、②構造部材として構造耐力に期待する――という2つの分岐が存在。このうち、①については型枠内部に鉄筋を配してコンクリートを充填するのであれば、現状でも建築可能でRC造として仕様規定が適用される。仮に鉄筋を配さず、型枠内部に高強度の特殊なモルタルを充填する場合は構造耐力上主要な部分等に特殊な材料を使用する大臣認定が必要だ。
また、②のように構造としてみなす場合も大臣認定の取得が求められる。飯田COOは「3Dプリンター住宅は構造としてみなすか、みなさないか、その部分での明確な設計さえしっかり行えば、現行法の基準の中で普通につくることができる」と解説する。
被災地に光を届ける
現在、同社が取り組んでいるのが能登半島の被災地復興に向けた取り組みだ。石川県の方から、被災した人は何千万円もかかる住まいをもう一度建て直す元気はないと告げられ、同社に「光を見せてほしい」と要望を頂いたのだという。「本当は2、3年後、インフラが整って落ち着いてから取り組む予定だった」と話す飯田COOだが、被災地に「550万円で建つ家」という光を見せるためにも同地での3Dプリンター住宅建設に取り組む覚悟を見せたいとした。
この他、同社では戦争で多くの住宅が破壊されたウクライナ政府に対し、住宅用のデジタルデータを無償で供与することで戦後復興住宅の後押しをするとしている。デジタルデータと出力できる3Dプリンターがあるなど、条件が整えば理論上同じものが世界各地で建設可能だ。こうした中、同システムに寄せられる期待は大きなものがある。
話の最後に改めて「全ての人から30年の住宅ローンをなくし、新しい自由を手に入れる社会を実現したい」とまとめた飯田COO。これまでの住宅の概念を覆すような新たな革新技術の存在が近い将来、工務店業界にどのような変化をもたらすのか――。その動向について弊紙でも引き続きお伝えしていきたい。
【日本住宅新聞9月5日号より一部抜粋】