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新春特別インタビュー セイホク株式会社 井上篤博社長  炭素貯蔵に資する「カスケード利用」優先を 国産材の安定供給と超厚合板の利用拡大を目指す

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 合板は住まい作りに欠かせない建材の一つ。そんな合板製造業にかかわる全国的な中央団体として、同産業の発展を図るために必要な各種事業を行っているのが日本合板工業組合連合会(日合連)だ。昨今住宅着工戸数は減少傾向にあるが、こうした中、日合連の会長でもある井上篤博セイホク社長はこれらの情勢についてどのように見ているのだろうか。今回、合板業界の現状と将来的な木材利用の課題について率直に語って頂いた。

――本日は宜しくお願いします。昨年令和6年の振り返りと令和7年の抱負についてお聞かせ下さい。
井上社長:昨年の合板業界は、「販売枚数の減少」と「製造コストの上昇」そして「価格の下落」とトリプルパンチに見舞われた年になりました。昨秋9月まで3年近く続いた新設持家住宅着工戸数減少など需要縮小に抗うことができず、また業界内の足並みの乱れから需給バランスが崩れコスト上昇にもかかわらず価格競争が激化し、指標となる12ミリの国産針葉樹合板価格が大幅に下落するなど大変困難な年になりました。
 本年は、合板業界として住宅市場だけでなく中高層建築市場や非住宅建築市場における超厚合板の利用拡大へ向けて努力していきたいと考えています。

――コロナの影響が落ち着いてきた一方、原材料価格や物流費、人件費の上昇、円安などが問題となっております。
井上社長:その通りです。合板用国産材価格は上昇傾向にあります。FIT制度によりバイオマス発電の燃料用国産材価格が上昇しているからです。地域によっては製材用や合板用原木価格に迫りつつあります。また海外からの輸入原木は円安により高値になっていますし、原油価格の影響を受ける接着剤や塗料も同様です。物流費は2024年問題の影響により運賃上昇とともに距離によってはトラックの確保が難しくなっています。人件費についても地方に位置する工場にとっては人手不足は切実な問題で人件費の上昇は避けられません。最近の20年で15~64歳の生産年齢人口は1000万人減少しているそうで、それを女性や高齢者の労働参加により労働人口を辛うじて維持しているのが日本の現状です。地方から大都市への人口流出も顕著で地方の大幅な人口減少が止まりません。必要な労働力の確保のために省人化のための設備投資と働き易い職場づくりや給与等雇用条件を改善する工夫は必須です。一般的にコアCPI(※消費者物価指数)も2%を超えあらゆるものが値上がりしているのに、合板価格だけが下落している状況でした。

――業界においてさらなる国産材利用を拡大するため、必要となる取り組みとしてはどのようなものが挙げられるでしょうか。
井上社長:第一に、国産材の安定供給が大切です。令和4年に林野庁より日本の森林蓄積量は55億㎥超と発表されました。その5年前の調査では52億㎥超でしたので、日本の森林は年間6000万㎥程度順調に成長しています。ところで、木の使い方は「原料」と「燃料」の2種類があります。原料利用としては、製材・合板・紙パルプといった木材製品として有効活用することです。令和5年の林野庁発表の統計では、丸太換算で製材用として1200万㎥、紙パルプ用は470万㎥、合板用は390万㎥の国産材を原料として活用しました。2000年の合板用国産材がたった13万㎥であったことからすると、隔世の感があります。官民挙げての木材自給率向上という大号令の下、日本の合板業界としては相当な力を発揮してきた自負はありますが、前年の490万㎥利用の実績からすると実に100万㎥もダウンした水準です。
 他方燃料利用としては、木質バイオマス発電やバイオエタノールなどが該当します。令和5年日本では約2000万㎥の木材をバイオマス発電の燃料として利用しており、その内1100万㎥は国産材を燃やしています。今後さらに木質バイオマス発電所は全国に増設される傾向にあるだけでなく、航空業界では未利用材を利用したバイオマス由来のSAFと呼ばれる燃料の利用増大が見込まれています。形状を問わない燃料利用と比し、一定の長さや直径により原木選別が必要となる製材や合板業界としては原材料の確保に先行き不透明感があります。
 また、世界の森林大国と比較すると日本は地形が急峻で降水量が多い国です。出材は自然との闘いという側面もあり季節や天候に左右されるところがあります。日本でもハーベスタやプロセッサという高性能林業機械はかなり浸透していますが、森林の林道等はさらに整備する必要があります。林業従事者の更なる確保と育成も重要課題です。
 第二に、合板の需要拡大が喫緊の課題です。一般的に合板には構造用、型枠用、フロア用の3つの主要需要があります。それ以外にも中高層建築物や非住宅建築物への利用を目指して100ミリや200ミリという超厚合板CLP(CROSS LAYERED PLYWOOD)を開発しています。また内装木質化の需要にも対応できるデザイン性に富んだ合板の提案にも挑戦していきたいと思います。専門的知識を有する森林総合研究所の先生方やデザイナーや建築士の方々にもご協力いただき研究開発を続けます。

――こうした中、過去には日本農林規格(JAS)不正格付けの海外産合板を放置した外国認証機関の業務停止がありました。
井上社長:日本国内には(公財)日本合板検査会という登録認証機関があります。政府はそれ以外に内外無差別の前提で、外国の認証機関にもJAS認定の認証権限を与えています。その中でJAS制度の価値を踏まえ真面目にやっている認証機関とそうでない所が明らかになったのだと思います。
 JAS制度の厳格な運用が何より大切です。JASの基準に満たない合板で家を建て、最終的に困るのは日本の消費者そして工務店や輸入業者です。この事例で政府は該当の外国登録認証機関に対し、3カ月間の業務停止命令を出しましたが、海外の合板メーカーからは、「我々は真面目にJASを守ってきた。不正を見逃した登録機関に対する罰則がたった3カ月なのか」、「日合連はもっと政府に強く罰則強化を主張すべきだ」とお叱りを頂きました。今後JAS規格の信用性を高めるためにもJAS制度の世界的な厳格な運用を進めていくべきと思います。

――最後に読者である工務店経営者に向け、メッセージをお願い致します。
井上社長:今後日本の人口は減少していきます。一人ひとりの価値観に合った単身生活をすることも普通になり高齢者の単独生活も増えてくるでしょう。前回の大阪万博の頃と比較すると1世帯当たりの平均人数は3・41人だったのが、現在2・05人となり、さらに2人を下回ることもそう遠い話ではないでしょう。確かに総住宅数も約3000万戸から6500万戸へ倍以上増え、世帯数も約3000万から6000万と倍増していることも背景にあります。
 しかし、住宅市場の先行きを悲観的に見る方もいますが、私はそう思いません。住宅は生活の基本でありエッセンシャルなもの。人生や夢の実現にも不可欠なものです。確かに世帯数からすれば住宅数は足りていますが、税制上の空家の解体奨励や建替えの促進、中古住宅のリノベーションやリフォームなどより暮らしやすい住まいづくりへのニーズはより大きくなるのではないでしょうか。住宅需要の構造的変化があるなかで工務店様はそれに合わせて家づくりをしていらっしゃると思います。本年4月の法改正やエネルギーコストの負担を和らげる省エネ性能に優れた断熱性の高い住宅やZEHへの対応など本当に敬意を表します。台風や地震の多い日本なので、やはり住まう方々の生命と健康と財産を様々な災害から守れる強い家を厚く強い合板でつくっていただきたく、耐力壁には12ミリや15ミリの合板を、床・屋根等の水平構面には24ミリや50ミリの合板をご用意しております。これからも日本の堅固な家づくりと日本の森林の未来のために、メーカーとして品質向上と供給責任を懸命に果たしてまいります。より厚いより強い国産合板をどうぞご利用ください。

【日本住宅新聞2025年1月15日号より一部抜粋】

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