50周年記念特集号(第二弾) タカラスタンダード㈱ 小森大代表取締役社長 前線・現場を最重視して経営する ホーローの技術進化させ品揃え拡大も
――弊社50周年記念インタビューにご対応いただきありがとうございます。早速ですが、4月1日付で代表取締役社長に就任されて今の気持ちは。
小森社長:50周年おめでとうございます。「持続可能な企業にしていきたい」という想いが一番です。弊社は1962年、世界初となるホーローキッチンを開発し、住宅業界へ本格的に参入しました。しかし、当時から60年以上が経過しているため、体制を変えていかなければなりません。今コアとなっているビジネスは強化していきますが、弊社の新たな未来も私の代で作り上げていきます。
――今後の抱負は。
小森社長:聞こえは良くないかもしれませんが、私はよく「人身御供」と言っています。「いけにえ」という意味もありますが、私は「集団の利益のために自己を犠牲にする」という意味で使っており、そのくらいの意気込みで会社の未来を作っていきたいと思っているのです。今回社長就任のお話をいただいたときも「人身御供」の気持ちで拝命しました。
――今の体制から変えなければならないと考える理由と、コアビジネスの強化について具体的にお聞かせください。
小森社長:日本全体の人口が減少し続けていることから住宅は新築、既築含めて必要な数が減っていくため、市場もシュリンクします。新たな事業を検討していく必要があります。また、コアビジネスの強化については付加価値提案が重要です。具体的には強みのホーローにより磨きをかけるだけではなく、その取り組みをお客様や工務店様、流通店の皆様に多く知っていただくための努力を継続します。例えばショールームは商品を展示して来場者に選んでいただくためだけに使うのではなく、「生活を豊かにしたい」という想いを持つ人々が自然と集まる空間が理想です。実際に来場者が「こんな豊かな生活に変わるんだ」と思っていただけるよう魅せるのが我々の仕事だと思っています。
――小森社長は岡山支店長、本社営業本部営業課長、埼玉支店長を歴任するなど最前線でご活躍されてきた経歴をお持ちです。前線を経験されてきた中で特に印象に残っている言葉はありますか。
小森社長:市場が右肩上がりに成長していた時代では、良い製品が次々に必要とされました。当時我々メーカーは自分達が売りたい製品を作り出すことで市場のニーズに答えてきたのです。しかし、時代はお客様が本当に必要としているニーズにしっかりと応えなければならない市場へと変わりました。現場からはこうした製品を「一緒に作ってほしい」という声を多くの方々からお聞きしており、印象に残っています。これは私が前線にいたときも、今も非常に強く意識しています。
――御社は新築におけるキッチンの国内シェアトップとなっていますが、次にはこれを維持しつつリフォーム分野のシェアアップを目標にされています。
小森社長:キッチンのシェアは国内市場で29%を占めていますが、リフォームでは2、3番手となっています。リフォームのシェアを拡大していくため、商品ラインアップの間口を拡げて販路を拡大する必要があります。極端な例ですが、弊社の強みであるホーローを推すために、全ての部材がホーローであることにこだわる必要はありません。実際に新築でご好評をいただいているのは、木製素材とホーロー素材を組み合わせた商品です。お客様が好むニーズに合わせた商品展開が重要だと考えています。ホーローを推すがあまり、お応えできていたはずのニーズを見逃してしまうのは非常にもったいないと思うのです。お客様のニーズに合わせた上で、タカラスタンダードらしいこだわりを打ち出していきたいです。ホーロー素材には磁石が付けられるため拡張性が高く、清掃性にも強みがあります。また、弊社がもつインクジェット印刷の技術によって高精細の模様が表現できるようになりました。私が社長を務めているうちには凹凸加工で肌触りが表現できるようにしたいとも考えています。こうした技術が進歩していけば、水回りだけではなく、内装材全般にも転用できるでしょう。弊社の強みはもっと様々な分野へと拡げられるはずです。
――社長に就任された初年度となる今期ではどのような取り組みを行っていきますか。
小森社長:弊社では2025年3月期~2027年3月期の中期経営計画を打ち出していますが、テーマは「変革への再挑戦」です。前回の中期経営計画でも社内体制を変えていきたかったのですが、コロナ禍中に供給責任を果たさなければならなかったこともあり抜本的な構造改革としてスピード感に欠けました。今年度で社内における構造改革やデジタルトランスフォーメーション(DX)を推し進めていきたいです。資材調達から顧客管理までの工程で生じてしまう二重の手間を解消するため、一気通貫の対応が可能な形へと変えていきます。非効率な仕事が多いと、若い方々が住宅業界に来てくれなくなってしまいます。またDXは業界全体の課題でもあります。とはいえ、我々の根幹である「見せて売る」や、「ホーロー素材への特化」など変えてはならないところは変えません。
――経営の中で特に意識していることはありますか。
小森社長:前線を一番大事にします。全ての事象は現場で発生していますが、経営者は前線から最も遠い立場です。だからこそ、情報は自ら取りに行かなければなりません。現場を見ると自らの感性でキャッチできる情報が得られます。また、トラブルの種になりうることを、小さなインシデントのうちに気付くことができれば、問題が大きくなる前に対処することができるというメリットもあります。
――現場を見る重要性について具体的なエピソードは。
小森社長:直近で弊社を含む各メーカーは相次いで値上げを実施しました。社内にいると、半年や1年のペースで値上げを続けているため、そこまで価格が上がっているように思わないことがあるのです。しかし、ショールームの来場者からすると、「少し高いな」と思ってしまいます。こうした肌感覚もショールームに行って、現場を見るからこそ気付けます。業界の目線と一般人の目線は違うため、その差をどう感じるか意識することは重要です。
――今までで最も苦労したことは。
小森社長:2013年から6年間は埼玉支店長を務めていました。当時は数字が安定せず、支店の雰囲気が悪かったのです。しかし振り返ってみると自分中心に考えていました。例えば数字を上げるにしても「何のため上げるのか」自問自答してみると、結局は自分の成果を上げたいという答えに収束してしまっていました。その時、経営学者の坂本光司さんが提唱する「五方よし」という考え方に出会いました。「三方よし」は近江商人に伝わる商売の理念で「買い手よし、売り手よし、世間よし」の考え方です。これに対して「五方よし」は「社員と家族、社外社員や協力会社、顧客、世間、株主」の幸せを実現するための考え方です。やはり、社員が幸せにならないと社外社員が幸せにならない。それに、そもそもお客様に接しているのは社員です。考えを改めてからまずは一緒に働いている社員を第一に考えようと舵を切りました。すると上手くいきだしたのです。これは非常に良い経験でした。
――今後のタカラスタンダードの方向性をどのようにお考えでしょうか。
小森社長:「持続可能な会社にしていきたい」というのは冒頭の通りですが、併せて「国内事業」、「海外事業」、「新規事業」の3本柱に注力していきます。「国内事業」は人口減で今後厳しくなっていくとされていますが、悲観していません。水回り製品の製造だけでなく、「人々の豊かな暮らしを手助けする」枠組みにまで拡げれば、まだ我々のできることは沢山あります。「海外事業」では既存の国内事業を積極的に海外へと展開させます。現状は台湾、中国、ベトナムの3カ国で展開していますが、今後はインドとインドネシアでも新規展開を予定しています。日本のキッチンと親和性があるこれら5カ国を皮切りに積極的に海外事業へ取り組んでいきます。「新規事業」ではホーロー製造の際に金属に釉薬として焼成する「フリット」が他業界に活用できると考えています。実際に歯科材の原料として販売もしていますが、完全な別事業を始めたいということではありません。弊社にはショールームや工場、物流拠点、技術など様々な資産があるため、それらを派生させて新たな分野に挑戦したいと考えています。
――読者工務店の方々にひとこと、お願いします。
小森社長:工務店様はお客様と一番近い距離で求められる住宅を作る仕事です。我々の仕事も単純に生産した商品をショールームで販売するのではなく、ヒアリングを重ねてお客様の求める理想にベストマッチさせていくものです。お客様のニーズとウォンツをキャッチして仕事をする点では共通していると思っています。ぜひこれからも同じ想いを持ったパートナーとして、持続可能な社会を一緒に作っていきましょう。
【日本住宅新聞9月15日号より一部抜粋】