50周年記念特集号(第二弾) 全国建設労働組合総連合 中西孝司中央執行委員長 今が「一番悪い時に建設職人やっていたね」と言われるように 自分の作ったものが何十年も残る点が魅力
――本日は宜しくお願い致します。初めに貴団体の紹介をお願いします。
中西委員長:日本住宅新聞さん、50周年誠におめでとうございます。住宅業界や地域の工務店を業界紙として支えていただいていることに感謝とお礼を申し上げたいなと思います。全建総連は1960年11月に3つの団体が合流して結成されました。結成当初7万3000人だった組合員数は、現在6月末時点で60万人を超えるなど、大きな組織となっております。組合員は一人親方や零細の工務店、その協力団体の人たちです。物価上昇で建材も高くなっている今、私たち組合仲間は地域の特性を生かしたサポート面で優位性があるのかなと思っていますし、地元の人々の信頼される存在で、地域に密着した仕事ができると思っています。また、高齢化が進む今、点検商法の被害が増えており、多くの仲間が地域の住民から相談を受けています。不必要な工事、悪質業者を追い払うクーリングオフの手続きをサポートするなど、大手企業ではできない地域に根差した、信頼を基本にした仕事確保を進めていきたいなと思っています。
――建設業界、中でも住宅業界の現状や魅力について中西委員長はどのように捉えていらっしゃいますか?
中西委員長:個人で仕事をすることが大変な時代、昔に比べて地域の工務店もだいぶ少なくなりました。私自身は香川県で大工職人をしておりますが、県内では製材屋さんが減り、1~2軒程度しか残っていない状況です。また、工務店の仕事も新築というより、リフォーム・リノベーションが増えてきた印象です。こうした中、業界の魅力について改めて考えたのですが、やはり道を歩いていても、「ここは私が建てたんだ」、「この屋根を私が葺いたんだ」という自分の作ったものが何十年も残るという点が一番の魅力だと感じています。
――近年、政府は働き方改革を推進していますが、こうした動きは住宅業界にどのような影響を与えているとお考えですか?
中西委員長:働き方改革や建築キャリアアップシステムが定着すれば、基本的には建設職人の処遇改善にもつながると思います。ただ、現時点は定着前の段階で、都市部のゼネコンの下請けなどに入っている方は利用している人も多いのですが、地方で使える現場はまだ少ないのが現状です。働き方改革についても全建総連の組合員は中小零細企業で働いていますから、多くても1人雇っているかどうか。その人もお施主からというより、2次、3次下請けとして仕事をもらっている例が多いです。日給月給みたいな働き方の人が多く、やはり土曜日休めば給料が下がってしまう。今回、働き方改革で土曜日は割り増し料金が発生するようになりましたが、下請けの会社で払えないのであれば、社員を外注扱いにするという流れも増えてくるのではないかと懸念しています。
こうした中、先日、政党要請に赴いた際、ある国会議員の先生が「土曜日を休みにするためにも、その分の給与を他の5日の日に振り分けるように頑張ってほしい。もっと賃金を上げていかないとダメですよ」と応じてくれました。私たちも活動を通じ、土曜日が休みでその分の給与が他の日に振り分けられることがもう当たり前になるような社会を求めていきたいと思います。
――職人不足が深刻化していますが、その最大の理由はどこにあるとお考えですか?
中西委員長:昔から言われる3K、「きつい」「汚い」、「危険」がまだ残っていて、さらに給料が安い点が挙げられます。私は父も大工をやっていたのですが、当時、父に何故大工になったのか聞いたところ、「公務員より給料が良かったから」という答えが返ってきました。やはり給与が1番大きな要素かなと思います。それから給与よりも休みに重きを置く人もいます。他業種から遅れているこの週休2日制や賃金アップはしっかり追いついて、越えていかなくてはいけないのかなと思っています。
――脱炭素社会実現に向け、環境に対する意識が高まりつつあるように思われますが、住宅業界が目指すべき姿として、どのような取り組みが挙げられるでしょうか?
中西委員長:省エネ基準適合住宅はもう今の流れで当たり前だと思いますし、全建総連をあげて設計・施工の断熱の講習など様々な情報発信を行っているところです。また、木材の国産材利用が求められる中、全建総連では「木材利用促進協定」を農林水産省や国土交通省と締結しました。川上から川下まで森林資源の好循環をはかることで、脱炭素社会の実現にも貢献できるのではないかと考えています。
――住宅に関連する法規制等にも動きがみられます。
中西委員長:特に気になるのがアスベスト問題。昨年10月から建築物などの解体工事・改修工事の前には、有資格者によるアスベスト事前調査をすることが法律で義務付けられましたが、全建総連の組合員でこの資格を取ろうとしている人が多くいらっしゃいます。ただ、お施主様の金銭的負担の面からみて課題も感じています。例えば私が所属する全建総連の香川建労中讃支部では建物が古くなり、解体しなくてはいけなくなりました。約35坪の建物ですが、軒天や和室の天井にアスベストが含まれていました。そこで法律に基づき、石綿飛散防止方策の実施などを行わなければならないと説明をした上で見積もりを取ったところ、解体費用計約300万円のうち、およそ半分となる約150万円をアスベスト関連が占めてしまいました。「これってどうなの」と。これでは黙って作業してしまう業者も出てくるのでは、と心配しています。
この他、新築を手掛けている人は、いわゆる4号住宅の見直しが気になるようです。特に地方ではこれまで確認申請を取らなくていい地域がありました。これからは、そうした地域でも確認申請を取らなくてはいけなくなるため、業務やコストの増加が懸念されています。また、今回の建築基準法改正ではリフォームやリノベーション、具体的には大きな模様替えや大規模修繕についても確認申請が必要とされています。昔の住まいは階段が急なためこれを付け替える工事も多いのですが、その度に確認申請が必要とされてしまう。全建総連としても本当に全部必要なのか国土交通省に確認をしたところ、「必要」との回答を頂きましたが、現場ではしばらく混乱が生じるかもしれません。また、屋根や外壁にかかる工事の判断基準とはどのようなものか、など、事例と対象をしっかり把握し、情報発信に務めていきたいと考えています。
――「脱炭素社会の実現」、「働き方改革」、「職人不足」など様々な課題が山積する建設業界ですが、もし仮に50年前の建設職人が現状を見たら、どのように評価するとお考えでしょうか。
中西委員長:私も大工になってから45年になりますが、当時に比べて作業は楽になったと思います。私が入職したころは道具、機械は、「丸ノコ」と「ドリル」、敷居と鴨井の溝をつくる「カッター」の3つくらい。釘だって全部手で打っていましたからね。ただ、昔は「この1本の木で、こことここを取ろう」と考えながらできたのですが、今は業者が番号を打って持ってきてくれますから、何も考える必要がない。昔は「あなたに任せている、あなたじゃなかったらできないんですよ」という信頼や責任感がありましたが、今の新築住宅では「ちょっとこっちの方がいいんじゃないの」と工夫したら怒られますからね。「マニュアル通り作らなければダメ」というので、なんか面白くないな、ちょっと可哀そうかなというのは見ていて思います。
――また、50年後に建設業界の歴史を振り返った際、現在はどのように位置づけられる時代になるとお考えですか? その上で、今を生きる我々が、過去や未来の建設業従事者に発信したい志や想いはどのようなものなのか、教えてください。
中西委員長:未来から見たら、今の時代って「一番悪い時に建設職人をやっていましたね、よくそんな時代耐えていましたね」と言われるようにしていかなくてはいけないなと思っています。50年後はやはり機械にしても工法にしても、もっと変わっていく気がします。昔、「鉄腕アトム」で手塚治虫さんが高速道路などまだなかった時代に想像で漫画を描いていましたが、そんな世界が実現するようになっているじゃないですか。住宅も昔想像していた姿が実現するようになってくるのかなと思います。
住宅は、今からリフォームやマンションが強くなってくるのかなと思います。私たちの仕事は一人ではできません。他の業種の人や仲間、お施主様と信頼関係や人間関係を構築することが必要であって、そうした技術、技能をしっかり持っている人でなければが建設職人にはなれません。だからまず職人は自分に自信と誇りを持ってもらいたい。そしてお施主様に限らず、もう普通の人が「職人さんって偉いんだ」と、立派な人がしていると思われるような世の中にしていきたいですね。
――ありがとうございました。
【日本住宅新聞9月15日号より一部抜粋】