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新築にできない価値をリフォームに

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 今年も新築では得られないリフォームならではの価値を示した多くの素晴らしい作品が集まった。(公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センターは10月3日、「第41回住まいのリフォームコンクール」(2024年度)の審査結果を発表。さらに同日、東京都内で表彰式を行った。
 同コンクールは住宅リフォーム・紛争処理支援センター主催のもと、住宅リフォームの普及促進とリフォームの水準向上を図ることを目的として設置されたもの。全国各地で施工された住宅リフォーム事例を募り、優秀な事例について表彰、これを消費者や事業者に広く紹介する取り組みを行っている。1985年度より毎年実施しており、今回で41回目だ。
 部門はリフォーム前後がともに住宅である[住宅リフォーム部門]と、住宅以外の建物を住宅として再生したものや、住宅を住宅以外に用途変更した活用事例を募集する[コンバージョン部門]の2つ。今回[住宅リフォーム部門]で306件、[コンバージョン部門]で10件の応募が寄せられ、このうち、上位賞7賞をはじめとする28件の入賞作品が選定された。
 国土交通大臣賞に輝いたのはアトリエメイ一級建築士事務所設計、㈱箱屋、児玉佑司氏施工による「瀬戸2棟空家の改修」(コンバージョン部門)だ。同プロジェクトは、愛知県瀬戸市という豊かな自然に囲まれた地域で、子育てや地域の人々とのつながりを求めて移住した設計者でもある施主夫婦が、築50年以上の木造住宅と鉄骨造の事務所建物を改修。コロナ禍でリモートワークが普及し、大都市圏から地方に移住する人が増える中、「空き家の有効活用、子育て環境の充実、働き方の未来像への接近、地域活性化への貢献等、様々な政策課題にも関係する素敵な実践例となるもの」として評価された。
 建物は1971年竣工の築53年の物件。工事対象面積は195㎡と広く、築後半世紀を超えた構造躯体も相応に傷んでおり大きく触る必要があった。そのため予算との兼ね合いで、使い方に応じた各室の性能設定を行い、場所によっては思い切って半屋外空間にするなど、暮らし方に沿ったリフォームを実施している。
 特に配慮した事項として挙げているのが、解体後、腐敗している木材の部分的な取り換えや基礎の補強を含めて耐震補強を行い、市の補助金採択を得られるレベルの性能を持たせた点。施工期間は210日間、総工事費2500万円となっている。
 同プロジェクトは「公・共・私」といういくつかの性格の異なるスペースに分けてデザイン。季節や時間、集まりの種類等々によって居場所を変えるという暮らし方を実現させるとともに、それを可能にする全体のデザインは押しつけがましさのない、自然体で好ましいものとなっている。
 講評を行った松村秀一委員長(神戸芸術工科大学学長)は同プロジェクトについて「もともと倉庫、仕事場として使われていた建物は、ご友人の方、お知り合いの方がアトリエとして使っている」と紹介。人口密度がそれほど高くない自然豊かなところで暮らすには、地域の人たちとの繋がりをどう構築していくかという課題が生じるが、自分の家でそれを作っていこうとする考え方が新しいと指摘する。
 また、鈴木ひとみ委員(建築設計工房パッソアパッソ代表)は2階の広い空間が子ども同士のつながりを生み出すのではないかと予測。将来的に子ども部屋が必要になった時、この先の未来も楽しめるような住まいになっていると評価した。
 当日はこのほか、多数の受賞作品の事例を紹介。住宅金融支援機構理事長賞に輝いたのは、築40年の実家を3世代で暮らしていく省エネ住宅にリノベーションし、長期優良住宅仕様に性能を向上させた福岡県糸島のプロジェクト。設計・施工はエコワークス㈱で、UA値0・48、BEI値0・36を実現した他、屋根をガルバリウム鋼板に履き替えて軽量化することで耐震性能を向上させている。
 加えて基礎補強・基礎断熱を行い、「床下エアコン」を採用。住宅の省エネ性能に対する社会的要請がいっそう高くなっている中、築古の戸建て住宅の性能向上を果たし、次世代に引き継いでいくことのできる優良なストックとした点が評価された。
 各賞の表彰式後のパネルディスカッションでは改めて各作品の講評を実施。この中で松村委員長は年々受賞作品の工事費が上昇傾向にあるとした。
 その上で住宅リフォーム紛争処理支援センター理事長賞に輝いた築48年の持家共同住宅をDIY主体で改修し、280万円の総工事費に抑えた事例に言及(設計・施工エミマルリノベ)。「大変特殊なケースかもしれないが、ある程度安価な工事費でここまでできたっていうようなこともたくさん出てきてほしい」とした。
 また、表彰後のリリースで松村委員長は「住宅生産に関わる業界の方々も新築市場のおまけの市場程度に捉えていた方が少なくなかったが、時代は大きく変わった」と記述。「『新築にできない』」価値を求めて敢えてリフォームという方法を選び、確実にその価値を手に入れていた。リフォームは全く我慢の結果でもなければ、おまけの市場でもない。新築よりずっと面白い世界になりつつある」とまとめた。
 同賞の事例は住宅リフォーム紛争処理支援センターのホームページからアクセスが可能だ。読者工務店にとっても日々の仕事において大変役立つヒントが数多く掲載されていると思われるので、是非自社の事業に役立てられる事例がないか、チェックをしてほしい。

【日本住宅新聞10月15日号より一部抜粋】
画像:「公共部分」のカフェ/事務所部分。明るくポップな「よそゆき」の雰囲気の空間となっている。

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